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米国のプロスポーツリーグやメディアが日常茶飯事的に使う言葉の一つに「戦力の均衡」(Competitive Balance)がある。戦力の均衡は対戦する2つのチームの戦力が拮抗することだから、スポーツ経営では、キーワードの一つである。
だが、戦力の均衡が、米国の4大プロリーグでは重要視されるのに、日本のプロ野球では軽視されている。

プロスポーツリーグの商品は「試合」である。チケットを販売する試合の主催者は品質保証をしないし、試合結果の「不可測」は絶対的条件だ。しかも、チケットは前払いだから、試合が面白いに違いないとの「期待感」こそが、顧客であるファンに球場やテレビでの観戦を促す切り札となる。
米国では、ファン=顧客の図式が成り立つので、ファンの期待を高めるために戦力の均衡が経営の目標となる。一方、日本のプロ野球には、ファンの外に親会社が存在する。そのため、リーグ全体の繁栄よりも、球団を利用した広告宣伝効果が優先される。かかる日米の違いは、球団の経営規模が小さい時は看過できたが、日米の格差が広がり優秀な選手の流出が続く状況下では、見ぬふりはできない。リーグ全体で戦力の均衡を考えないとプロ野球の斜陽が本当に現実の姿になりかねない。

戦力の均衡を実現する方策として、米国のプロリーグは「球団収入の均等化」と「球団支出の平準化」を図っている。収入の均等化の成功の鍵はコミッショナーが握る一方、支出の平準化に効果的なのが、「サラリーキャップ」だ。サラリーキャップとは、球団から選手に支払う年俸総額のことである。リーグと球団が稼いだ収入の総額を球団数で割った額に、経営者と選手会が定めた配分比率を乗じて算出する。サラリーキャップは1982年にNBAが最初に導入した。パイが増えれば分配も増える仕組みであるために、選手と経営者の運命共同体の機運を醸成するとも言われている。
だが、サラリーキャップは経営者と選手双方にとって劇薬である。なぜなら、選手の立場からすれば、球団の事情に関係なく年俸は多い方がよいに決まっているし、経営者にとっても選手年俸抑制は経営の最優先課題だからだ。過去NBAに次いで導入したNFLとNHLは、ストライキとロックアウトを経てサラリーキャップ導入に踏み切った。労使双方に大きな犠牲を強いたサラリーキャップの制度は、経営者が推進する立場で、選手たちは否定的と思われてきたが、最近、様子が変ってきている。

米4大プロリーグすべてが、2011年に団体労働協約の改定を迎えるが、労使双方が本格的交渉に突入する前に、メディアを使った舌戦が始まった。経営が苦しかったときに導入したサラリーキャップの仕組みが時間の経過とともに経営の実態に合わなくなったので、サラリーキャップに代わる新しい制度が必要ではないか、と経営者がアドバルーンを揚げ始めた。
MLBが1994年から2008年まで平均年率4%の収入増加を達成しているように、10年以上にわたる活況のおかげで4大プロリーグは収入が増えている。このため経営者は、別の形で選手年俸に上限を設定したい意向のようだ。

2011年にサラリーキャップに代わる新しい制度が導入されると、日本のプロ野球はサラリーキャップの制度を経験する機会を逸する可能性がある。選手と経営者が運命共同体の気分になることがどんなものか、制度を通じて経験することに価値がある。「戦力の均衡」を経営の軸に置くためにも、サラリーキャップの導入を図ることは意義のあることだと考えるが、無理な話だろうか?

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