下記は、掲題、フジサンケイ ビジネスアイ記事のオリジナル原稿。
今年のプロ野球は、監督の契約延長(正確には、終了する契約を延長するか否かの)問題にも注目が集まった。監督の契約にかかわるゴタゴタは毎年起きているが、今年は主役がファンに人気の高いバレンタイン氏とメディア受けの良い野村克也氏だったために、グランド外の戦いとしてメディアを賑わした。
この場合、メディア露出の多い方が有利になる。日ごろメディアとの接触が多く、ファンからの同情を受けやすい監督が善玉で、寡黙を貫き通す球団(経営者)が悪役に回るのが一般的だ。だが、沈黙はもはや経営者の美徳ではない。
諺に、「沈黙は金なり」がある。昔の親父は無口だった。子供がダダをこねると、決まって、黙ってげんこつをくらわすのが普通だった。今はそうはいかない。価値観が多様化した現代は、無言は通用しない。逆に重大な発表をする時、不祥事が起った時、または、関係者の意見が食い違ったとき、など、組織や企業のトップが積極的に説明を試みることが重要となった。つまり、スポークスマンの機能が不可欠の世の中になったのだ。
典型的な例が米国だ。人種と言語が錯綜しており、無口では相手に絶対に意思が伝わらない。だから、国家的一大事では、大統領がテレビやラジオを通じて国民に意とする所を伝えるし、プロスポーツリーグの場合、コミッショナーがメディアに向かって頻繁にメッセージを発信する。スポークスマンの重要性を良く理解しているからこそ、彼らはカメラの前に立ちマイクに向かうのだ。
ところが日本では、トップがスポークスマンの役割を演じる組織や企業は極めて少ない。逆に、重大事にトップが下がる有様を見かけることが多い。それでは、世間から磐石の信頼を得ることはできない。
われわれが神から授かった意思の伝達手段は、「話す」と「書く」の2通りしかない。赤ちゃんが「泣く」のは話すことができないからであり、「暴力」を振るうのは話す力と書く力の乏しいかわいそうな人の最後の手段なのだ。現在、組織や企業のトップは3つの役割を果たす必要があると言われる。意思決定、リーダーシップ、スポークスマンである。内、最適な意思決定をタイムリーに行うことが最も重要である。そのため、組織や企業のトップは正確な情報を必要としており、彼らは誰よりも多く、且つ、精度の高い情報が集まる仕組みを構築している。だから、組織や企業の中で最も事情通であるトップが内外に向かって情報を発信するのが最も自然な形である。また、信頼と言う観点からも、トップが消費者、相手先、ファンに(メディアを通じて)直接メッセージを発信するのが最も説得力があるのは言うまでもない。
ところが、実際はそうなっていない。たとえば、私がパーソナリティを務めるラジオ番組の「Catch the Sports!」。その中に電話インタビューのコーナーがあるが、スタッフが広報を通じて社長や会長(場合によっては担当役員)に出演依頼をすると、10人中9人はお断りの返事。時には、広報担当者が即座に「無理です」と返答するそうだ。広報の心得違いに驚くことも多いと聞く。
最も信用の高いトップが、自社の新製品や売れ筋商品の特徴を製品開発のエピソードを交えながら消費者(リスナー)に直接伝える機会があるのに、その機会を握り潰す広報担当の間違った判断を許すトップも反省をする必要がある。社長や会長などの組織や企業のトップがメディアから逃げる組織や企業の将来は決してばら色ではない。トップは良いスポークスマンであらねばならない。今年のプロ野球は、トップのメディアへの積極的語りかけが消費者やファンの心を掴む有効な手段であることを改めて教えてくれた。
投稿者:大坪正則 | 21:23








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